Archive for 5月, 2007

ぼくの本棚 89:ザ・ハウス・オブ・グッチ by サラ・ゲイ・フォーデン


24 5月

20代の頃パリにいたことがある。

パリコレには世界中から新しいデザイナーやブランドが集まり、綺羅星のように輝いては消えていった。

しかし数十年、数百年という歳月で戦略的にブランドを育て、

国際的な評価を受け続けている企業もある。

グッチはその中にあって、80年で急成長した、しなやかでセクシーなブランドだ。

世界の頂点を目指すデザイナーや企業の憧れであり、富の象徴のようなブランドだ。

本書はそんなスイートな美しいブランドの話ではない。

殺人、狂気、欲望、権力、愛情、嫉妬と、暇な主婦を虜にする昼のソープドラマ並の、

グッチ一族をめぐる、恐ろしい真実と泥沼のような事実を、克明に描いたドキュメンタリーだ。

美しいものにはやはり、棘がつきものなのだろうか。

編集長 尾中謙文

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ぼくの本棚 88:生きて死ぬ智慧 by 柳澤桂子


23 5月

1995年の「二重らせんの私」以来共通するのは、読者の目線にたった平易な表現だ。

当時、DNAの遺伝子情報とタンパク質の関係について、さっぱりわからなかった僕にとって、

科学者がここまでわかりやすく書けるのかと感動したものだった。

それが今度は「般若心経」の現代語訳である。

「お聞きなさい。あなたも宇宙のなかで粒子でできています。

宇宙のなかのほかの粒子と一つづきです。ですから宇宙も『空』です。

あなたという実体はないのです。あなたと宇宙は一つです」

般若心経はこれまでいろいろな人が解釈本を出しているが、著者ほどインパクトは無かった。

何故か。

著者は生命科学者として研究をしている最中、1969年に「周期性嘔吐症候群」を発症し、

脳脊髄液が漏れるにいたり、以来、研究を断念し36年間闘病生活を強いられてきた。

「この三十六年間私は苦しみました。孤独でした。

人間であることの苦しみを存分に味わいました。科学の限界を知らされました」

著者は限界を知ることで自己と他者の執着を捨て、同時にあらゆる欲も捨てたのだ。

本書では、執着を捨てることで悟りを得た、釈迦のプロセスに近いことが起きているのだ。

編集長 尾中謙文

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ぼくの本棚 87:冒険投資家ジム・ロジャーズ世界大発見 by ジム・ロジャーズ


22 5月

ジムは投資家でありコロンビア大の元教授だ。

27歳の時600ドルを手に、ジョージ・ソロスと組んでクオンタム・ファンドをつくり、

4000%を超える驚異的な成績を残した。

37歳で現役引退した後、地球一周、六大陸横断の冒険をバイクで2年かけてまわった。

本書は、新たな旅を3年にわたり、黄色いベンツで116か国24万キロ、

戦乱、砂漠、ジャングルの奥地など、インディ・ジョーンズばりに、

行って、見て、発見した冒険旅行の記録だ。

しかも付き合って1年ちょっとになるペイジと一緒に。

日々仕事に忙殺されて、冒険を忘れてしまった人は、

これを読めば、まだこの世に冒険がたくさん残っていることに気づくだろう。

投資家の人は、絶え間ない発展や変化がコンピュータの画面の中ではなく、

世界中のあらゆる現場で、この一瞬にも起きていることが、手にとるようにわかるだろう。

そして、いつかこんな時間の使い方も素敵だと気づくはずだ。

編集長 尾中謙文

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ぼくの本棚 86:文章読本 by 三島由紀夫


21 5月

最近の日本語は美しくなくなった。

これは美しい文章を味わうことが無くなったせいではないか。

はっとする美しい文章に出会う度に、美や個性に対して敏感でなければと思う。

美とはあらゆる文体の形式美であり、あらゆる文章の様式美である。

本書で三島は

「文章の味には、味わってわかりやすい味もあれば、

十分に舌の訓練がないことには味わうことができない味もあります。

森鴎外や志賀直哉の文章がわかりにくいのは、

それがきわめて微妙な味、水に似た味わいをもっているからにほかなりません。

濃い葡萄酒やウイスキーに似た味わい、

一例が谷崎潤一郎氏の文章の味わいも捨てられないものであります」

と美しい文章を見極めるためには、相応の訓練が必要だと言っている。

わかりやす過ぎるTV、わかりやす過ぎる教育の中で、

もはや日本語が美しくないなどと言っている方がおかしいのだろうか。

編集長 尾中謙文

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ぼくの本棚 85:人があつまる by 浜野安宏


18 5月

浜野氏の名前を聞いてなつかしく思う人もいるのではないか。

浜野氏は六本木アクシス、表参道フロムファースト、渋谷QFRONT、東急ハンズをつくってきた。

なんだ流行はこの人が全部つくってきたんじゃないか、と思ったことがある。

総てにおいて、早すぎる先取り、鋭角で刺激的な感性はぶっ飛んでいて、

あちら側に行っちゃってた人がようやくこちら側に帰ってきた。本書はそんな感じする。

一般の人にもわかりやすくなって、天才浜野もいい感じで枯れてきた観がある。

「人間にとって居心地のいい都市は、ただ便利な街であればいいのではない。

ちょうどいい広さのストリート、坂道、曲がった道、路地、階段、

そして適当な大きさの人間のための広場、なじめるカフェ、毎日でも食べたいレストラン、

街に溶け込んだブティック、レベルの高いシアター、シネマ、クラブ」

浜野氏のような人が住みやすく、楽しい街をつくってきたからこそ、

今われわれはその多大な恩恵を享受できるのだ。

編集長 尾中謙文

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