ぼくの本棚 91:オシムが語る by 木村元彦監修 シュテファン・シェンナッハ/エルンスト・ドラクスル

28 5月

サッカーファン以外にはあまり知られていないが、オシムの半生は壮絶だ。

オシムがギリシャでサッカーをやっている時、祖国サラエボでは戦争が勃発していた。

「最悪だったのは、妻と娘が生きているのか、どうやって生活しているのか、

知るすべもなかったことだ。ニュースの報道ひとつひとつ、

戦争に関する新聞の見出しひとつひとつがどうしようもない苦痛、容赦ない責め苦となった」

オシムがアテネとグラーツを選んだ理由も、

ギリシャとオーストリアならサラエボに電話が繋がりやすいと考えたからだ。

しかしこの二国に限って、皮肉にも直通電話が無かった。

「アシマと娘イルマはサラエボで持ちこたえていた。

やがて、通りに死体が転がっているのが当り前になった。

毎日の水汲みはまさに命がけのゲームだ」

アシマとイルマは、オシムがヘリで脱出の手配をしたが、サラエボを離れようとはしなかった。

侵略に屈するのが嫌だったのだ。

3年後ようやく妻は国連防護軍の輸送機でウイーンに脱出したが、娘は戦争終結までがんばった。

「私を哲学者にしたのは教科書ではなく人生だ」

オシムの言葉に重みがあるのは、こんな人生を生きているからなのだ。

編集長 尾中謙文

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