井上靖の風林火山は好きな一冊だが、「其疾如風、其徐如林」「侵掠如火、不動如山」というくだりを「孫子」に見つけた。紀元前6世紀だからこっちが古い。司馬遷の「史記」はこれより400年後に書かれている。これほど細部に渡った兵法書は世界で類が無く、「五輪書」と並び面白い。「夜中呼び声がするのは、恐怖心にかられているためである。軍中がざわめき騒がしいのは、将軍の威厳が重くないからである。わけもなく旗印が揺れ動いているのは、軍旗が乱れているからである。部隊長がどなっているのは、兵隊が戦いに倦んでいるからである。馬に兵糧米を食わせ、その馬を殺して肉を兵隊が食べているのは食料がないからである」己を知る観察力だけでなく、孫子は実戦の指揮にもあたった。「兵は国の大事にして、死生の地、存亡の道なり。察せざるべからず」無謀な戦争を起こしてはならないと、2500年も前に孫子は言っている。
編集長 尾中昭文